『白滝不動』

むかしむかし、山城国の坊様が修行の旅をしていました。坊様は、旅の途中で彫ったお不動様を背負っていました。だいぶ歩き続けて、牧村にさしかかった坊様は、細く落ちる滝を見つけました。

「お不動様、少し休ませてくだされ」

といって、お不動様を背からおろすと、ひと口、ふた口・・・と清水を飲みました。しばらく休んで、「ああ、ありがとうござった」と、滝に手を合わせました。また、お不動様を背負い立ち上がろうとしました。けれど、どうしたことか、どんなに踏ん張っても立ち上がれません。坊様は、

「ああ、お不動様は、この滝のある所がお気にめされたんじゃな」

坊様は、お不動様に手を合わせると、木や石につかまりながら、なんとか滝の上まで登りました。そして、滝の落ち口の近くに平らな場所を見つけることができました。ここに、お堂を建てたいと思って、山を下りて、村の人々に話をしてまわりました。牧村の人たちは、

「それは、ありがたいことだ」と、集まってきて、そまつだけれどお堂が建ちました。

「お不動様、ご安心くだされ」坊様も安心しました。牧村の人たちも、

「ここを、お選び下さりありがとうございます。これから、ずっとこの村をお守り下さい」

とお祈りをするのでした。坊様も小さな庵を建てて、お不動様をお守りすることにしました。

お不動様は、滝の上のお堂にお祀りしてあるので、「白滝不動」と言われるようになりました。この話が近くの村々に知れわたって、お不動様は、悪いことから守ってくれるありがたい仏様だと、おおぜいの人がお参りにくるようになったということです。

 

お不動様の縁日は二十八日。特に十月二十八日のお祭りは大にぎわいだったそうです。昔は、お団子山盛りの大鉢が、十も二十も供えられて、境内は押すな押すなで大変だったそうです。それからのこと、お不動様は、ずうっと牧村の人たちに守られてきたということです。

 

※白滝不動尊は「牧の不動様」として親しまれ、今日でも秋山川岸の中腹にお堂が建っている。三十年くらい前までは、盛大に祭りが行われていました。